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「咲桜、頼むから落ち着いて……」


「で、私は誰をぶっ飛ばせばいいんだ? 片腕くらいいただいてもいいかな?」
 

私は心の底から恨みの瞳で在義父さんを見た。


在義父さんはびくっと大きく肩を振るわせる。


こういう、意外と動揺が表に出るのは、私は在義父さんに似ていると言われる。


「ご、ごめん咲桜……私も春芽くんにはめられて……」
 

項垂れる在義父さん。


その名前が出れば、何故在義父さんがこのような場所に私を連れて来たかを納得するしかない。
 
この場というのは、旧い(たぶん)お茶屋さんの、庭に面した一室で、更に私は着物を着せられているという状況。
 

私は今朝在義父さんに、「咲桜に逢ってもらいたい人がいる」と言われて、いつもなら肯くところだが、今回はどこか嫌な感じがしたので渋っていると、どこからともなく私の師匠(せんせい)であるお隣のおばあさんが現れて、一突きで気絶させられたのだ。


そして気づいたら、長い髪まで綺麗に結われて着物を着つけられて、ここにいたのだ。


目を覚ました私がまず見たのは、土下座する在義父さんだった。


土下座するくらいならいい加減マナさんに厳しくすればいいものを。


私はマナさんの味方をするけどな。