安藤さんが、左側に伝票の束を置いて、取引先に送る請求書を作成していた。
「…安藤さん…。なんか多くないですか…?」
「えー?そーお?」
フニャッて笑ってるけど、俺は騙されないぞ。
まだ2ヶ月だけど、仕事の流れや、担当、配分、ほぼ頭に入っている。

「…また誰かの分引き受けてるんですか?」
「えへへ」
安藤さんがバツの悪そうな顔で小さく笑う。
「今日ねー、あの辺の子達合コンなんだってー。終わらなくて行けなかったら可哀想じゃない?」
あの辺っていうのは入社2〜3年の若い女の子達。
「…そもそも、仕事溜めるのが悪いんじゃないんですか?」
「ふふっ。高樹君は新人なのに頼もしいね。」
安藤さんがまたフニャッと笑う。

「合コン…安藤さんは行かないんですか?」
「私ー?私みたいなおばさん行ったら場がしらけちゃうでしょー?だいたい若い子ばっかりみたいだしー」
安藤さんはまだ26歳だ。
おばさんと自嘲するには若すぎる。
でも…。
「…若い男は、興味ありませんか?」
「…うーん、そういうわけじゃないけど。ほら、私、そそっかしいじゃない?大人でしっかりしてて、包容力のある人の方が合うかもと思って。って、私が言うなって感じよね」

「……俺も手伝います……」
俺は、伝票の束を半分くらいガバッと取り上げた。
「どこまでやりました?」
安藤さんのPCの画面を覗き込むと、また、柑橘系の香りがした。