「随分と余裕だな」

「……っ」


と、目の前の端正な顔をした男の声で、思考が断ち切られる。

単なる憧れを抱いていたあの頃の記憶は、時よりこうして脳裏をよぎる事がある。

この男と何とも曖昧な関係となってしまった今となっては、もはや手遅れかもしれないが、私には一つ懸念していることがある。

最大要因を抱えたあの日、私はすっかり見落としていたらしい。

それはこの男の右手の薬指に鈍く光る、シルバーの指輪がはめられている事。

好き勝手に人の事を抱くくせに、この男は何の悪びれもなくその指輪をつけ続けているのだ。

右手ということは、恋人か婚約者か。

どちらにしても、パートーナーがいるご身分である可能性が高いのは確かである。