それからは特に水野君との会話もなく、気づけばお昼休みが終わろうとしている。次は化学室での授業なので、準備をして教室を出た。

「あ」

思わず声がもれたのは、教室を出たところでばったり麻衣ちゃんに出くわしたから。

珍しく一人でいる麻衣ちゃんと、思いっきり目が合ってしまった。

「あ、えっと……ごめん」

気まずくてとっさに目をそらす。バクバクと激しく動く心臓。戸惑いを隠せない。

麻衣ちゃんは黙ったまま私のそばに立っていて、ひしひしと視線を感じる。どう、しよう。逃げたい。

「あの——」

麻衣ちゃんがそう言いかけたとき——。

『ほんと無神経すぎるよ』いつの日か麻衣ちゃんに言われた言葉が脳裏によぎった。

またなにか言われるのかもしれない。次なにか言われたら、立ち直れる気がしないよ。

胸が苦しくて、目の前がクラクラした。

「ご、ごめんっ! 急いでるから!」

一刻も早くその場から離れたくて、私は逃げた。向き合う勇気がなかった。

もうこれ以上、傷つきたくないっていう思いでいっぱいだった。


土曜日、ダラダラした休日を過ごしていると、部屋がノックされてお母さんが入ってきた。

「桃、お味噌買ってきて」

「えー、やだー。めんどくさい」

「それと、あとこんにゃくとさつまいももお願いね」

「やだってば」

「あら、じゃあ今日は桃の大好物の豚汁が作れないわね」

「豚汁!? わーい、行く行く! 行ってきます!」