赤い実が……はじけた。

あの瞬間……

頭の中でそんな音が聞こえた気がした。

日向子のアパートまで新井くんと

手を繋いで歩いた。

「…じゃあ、ここで。」

私が彼にそう言うと、ギュッ…

繋いでいた手に力が込められる。

「………っ?」

私が新井くんの顔を見上げると

目と目が合う。

彼の優しい瞳が私を見つめている。

「…送ってくれてありがとう。」

私がそう言って手を離して

歩き出そうとすると

グイッッ………

「…えっっ…?」

新井くんが私の手を引き寄せた。

「…後、少しだけでいいから…

一緒にいたい。」

そう言って彼は私の体を抱きしめた。

ギュッ…

新井くんの胸に私の顔が埋まる。

この前と同じだ…新井くんの匂い…

なんだか心地いい…安心する匂い。

「……紗和…」

私の頭の上で聞きなれた掠れた低い声が

私の名前を優しく呼んでいた。

「……何?」

私が彼に聞き返すと…

「……好きだ。」

そう言って彼は私の体をギュッと

抱きしめる。

「…うん。」

罪悪感が波のように襲ってくる…。

それなのに…

ギュッ…

私は、彼の背中に手を回して

ゆっくり力を入れた。

この行為が、どういう事か……

私には十分…

分かりすぎるくらいわかった。

だけど、もう……

止めることができない。

「……じゃあ、また明日ね。」

そう言って私は、彼から離れる。

そんな私を新井くんは寂しそうな表情で

見つめている。

まるで、もう会えないような顔をして…

そんな顔されたら…行けなくなる。

「…紗和…誕生日、会える?」

「……え、誕生日?

でも、花束…もらったよ?」

私が新井くんにもらった花束を見せると

彼は、私をじっと見つめながら

「……会いたい。」

そう言った彼の顔は…男の人だった。

ドキン……ドキン……

心臓を鷲掴みされたような感覚……。

……こんな表情…ズルいよ…

彼への気持ちをずっとセーブしてたから

私も暴走してしまいそうになる。

「……紗和?どうした?」

新井くんが私の顔を心配そうに覗き込む。

「……ズルい…。」