「奥平先生…っ。」

「はいっ」

放課後の職員室で今日の小テストの採点を

していると、隣のクラスで2年の

学年主任の平野先生が

私の机に近づいてきた。

「クラスは、どうですか?

そろそろ、落ち着いてきました?」

「あ、はい……まだ、大変ですけど…

何とか、頑張っている所です。」

「そうですか…

まぁ、まだ5月ですしね…

何かあったら相談して下さいね。」

「……あ、はい、ありがとうございます。」

「あっ、新井はどうですか?

学校に来ていますか?」

「あっ、新井くんですか……

まだ一度も登校してないです。」

私が二年の担任になってから

まだ私はこの新井という生徒に

一度も会っていない。

「……そうですか…心配ですね。」

「はい…

平野先生は、新井くんを

知ってるんですか?」

「ええ、新井が一年の時に

担任だったんでね…。

真面目ないい生徒でしたよ。

周りのヤツとつるんだり

騒いだりするような感じじゃない

ですがね…。

ちょっと不器用なヤツでね…。

でも、いつだったかなぁ…

新井が、クラスのヤツを

庇った事があったんですよ…。

そういう事…

ちゃんと出来るヤツだったんだなぁって

少し、驚いた事があるんですよ…。」

平野先生は、少し嬉しそうな表情を

している。

「……へぇ…そうなんですか…

でも…何で驚いたんですか?」

「う…ん…何となくですが…

今までの新井はそういう事に

関わらない感じだったんでね…。

それからクラスに馴染んで

きたんですがね。

それが、去年の冬にね…

新井の親父さんが、倒れてしまって

…それからすぐに亡くなったんです。

それからですね…

新井が学校休むようになったのは…。」

「…そうですか…。」

複雑な家庭なんだ…

新井くん…大丈夫かなぁ。

私は今まで一度も、新井くんに

ちゃんと声をかけていなかった事を

後悔した。

私…クラス経営ばかりに気をとられて

来ない生徒の事、知ろうともしないなんて…

もっと、生徒に気を配らないとダメだよね。

「……奥平先生?」

「あっ、はい…。」

「大丈夫ですか?」

「はい…大丈夫です。

教えて下さって

ありがとうございました…。

私…今日、新井くんの家に行ってみます。」

「それはいいですね…

まぁ…定期試験も近いですし

出席日数が足りないと

進級に影響するので

よく話をしてやって下さい。」

「…はい、わかりました。」

平野先生は

そんな私を見て優しく笑っていた。