「うっ……うぁ、オエッ!!」



12月10日、夜中の1時。






俺は麗羅さんの家の風呂場から出ると、トイレに駆け込んで一気にものを吐いた。


客の家で何してんだよと思うが、そんなのに構ってる余裕なかった。とにかく気持ち悪くて仕方がない。吐いても吐いても不快感がぬぐえなくて、カレーを吐ききっても、口に指を突っ込んで無理矢理ものを吐いた。



夜ご飯に振舞ってくれたカレーライスは、もう俺の精神が狂ってんのか、味が全くしなかった。






「……兄さんっ」




こんなことしてんのもうウンザリだ。



「妖斗、大丈夫?」



「麗羅さん……ッ!?」





麗羅さんがトイレをノックする。慌てて俺はトイレの水を流して、ドアを開けた。その直後、麗羅さんが、俺の頭を勢いよくビニール袋に突っこんだ。



マズい。



臭いだけでわかった。



……これ、中に入ってんのシンナーだ。



顔を上げようにも、麗羅さんに手でビニール袋の中に思いっきり突っ込まれていて、抵抗できない。

……苦しい。息ができない。



「ごめんね? 妖斗」

それ絶対思ってないだろ。


「……っ、クソが!!!」



俺は、麗羅さんの足を蹴った。



「キャアッ!!」





悲鳴をあげ、麗羅さんは俺の顔からビニール袋を離した。





俺はリビングに行って財布と携帯を取ると、窓を開けて裸足で家を出て、全速力で逃げた。


玄関はトイレの近くにあるから、そっちにいくのはマズいと思ったから。


「はあっ…………はぁ」




シンナーのせいか、頭がクラクラして視界が徐々にボヤけていく。






それでも、他人の家の塀に片手を当てて体を支えながら、俺は必死で歩き続けた。