「やっぱり物がないと広く見えるよね」


西側の部屋にはベッドとテーブルとパソコン。

それから白で統一された家具に、フレグランスの香りのアロマキャンドル。ノックもしないで入ると『こら!』と怒られた部屋は今、8畳のフローリングが広がってるだけ。


「これからはこっち使っていいよ。修二(しゅうじ)の部屋より広いでしょ?」

「移動すんの面倒だからいい」

「そうやって面倒くさがっても、もうやってくれる人はいないんだからね」


その言葉に俺は「ふん」とそっぽを向く。

何度も喧嘩して、何度も仲直りして、何度も何度も出入りした部屋は思い出だけを色濃く残したまま、ずいぶんとさっぱりしてしまった。


「寂しいでしょ?私がいなくなると」

「べつに」

「素直じゃないなあ」

この余裕に、俺はいつもムカついてた。


腰まで伸ばした髪の毛に、いつもと変わらないTシャツとデニムの洋服。


なのに、俺の知らない人に見えるのは左手の薬指に光る指輪のせいだろうか。