「はぁ…。」

衝撃の告白の翌日。
私は状況も何もかも消化不良のまま登校していた。

寝る時だって考えた。
そんなことがあるんだろうかと。
ヴァンパイアなんて小説やアニメ、漫画でしか登場しない。
現実に存在するのであれば、そんな事件が起こりそうなもの。
どうやって信じれば良いのか。





むしろ、本当に嘘だったり……。





あぁ分かんない分かんない分かんない!





何度このせめぎ合いをしたことか。
もう答えなんて出なかった。


「ねぇ郁君〜♡今日は私と遊ぼ〜?」

学校の校門を抜けた頃、甘ったるい猫撫で声が聞こえてきた。
ハッと視線を正面に向けると、15人程は居そうな女子生徒が群れをなしていた。

その中心には、女子生徒よりも幾分か抜きん出た、栗色のふわふわとした髪が見えていた。

「あぁー、そうだねぇ。ちょっと気分乗らないかな。」

「えー!なんでそんな素っ気ないこと言うの!私、何でも奢ってあげるから。」

お金持ちの親を持つ生徒もちらほら見かけるこの学園。
貧乏育ちの私から見れば、可愛くない誘い方だな、なんて思っちゃう。

やっぱ人気あるよね…そりゃそうか。

ボーッと周りの女の子の相手をする郁君を眺める。
モデルさんは大変だな…。なんて他人事のように考えていると、突然昨日の記憶がフラッシュバックした。




「分かんない?琴子ちゃん。これは奪い合いなんだよ。僕と…綾永と、忠臣の。
絶対に、誰にも渡さない。」






いやいやいやいやいやいや!
なんで今思い出すの私!



私の頬は、昨日の熱がぶり返したようにまた真っ赤に火照っていく。

私だけ特別にあぁやってしてるとは限らないんだから!
郁君のことだから?お得意のリップサービス的な?そんな感じかもしれないし!

真に受ける、私が馬鹿なだけだって。

頭をブンブン横に振って思考を切り替える。
朝から1人で騒いであほらしい。

郁君を取り囲む群衆を追い抜くように早足で歩いて行く。
相変わらず黄色い声が飛び交い、皆の目は、とろんととろけて見惚れている。

「あ、琴子ちゃん。おはよう。」

横目に見遣り、そのまま通り過ぎようとした瞬間だった。

郁君が名指しで、挨拶をしてきたのだ。

「なに、誰あの子…。」

「1年でしょ。郁君から挨拶されるとか何様…。」



「お、おはよう。……ございます。」

ヒソヒソと聞こえる先輩生徒の声。
あぁ…悪目立ちしてしまった…。
どうか…どうか何も被害がありませんように!

なるべく他人のフリをする為ボソボソと返す。
郁君には申し訳ないが周りの女子生徒が怖すぎる!!!

私は更に歩くスピードを早め、玄関で上履きに履き替え足早に去って行った。