ケータイ小説 野いちご

BADEND

四ヶ月

「嫌、だってばっ」
抵抗する俺。
「良いから来い!」
怒鳴る男。
何も良くないよ‼と心の中で叫ぶ。目の前のスーツの男を、思いっきり睨んだ。
成人してる人と未成年の俺が“そういうこと”したら、場合によっては違法なんですけど。この状況下では確実にアウトだし。
更に、この男は俺をホテルの方に引き摺ってってる。
助けを求められるような人は……いない。
やばいな……。
事の発端は、帰り道、男が声をかけてきたことだ。
「ねぇ、またデートしようよ」
また、ってことは、前に遊んだんだろうか。
愛想が無駄に良くて、胡散臭い。酒の臭いがした。
隣にいた空が、顔を軽くしかめた。
「うん、良いよ。今から?」
笑顔を貼り付けて対応する。こいつのことは嫌いな部類に入るが、愛してくれるなら関係ない。
ただ、俺はこいつを愛せないけど。
告白された時に断る理由も、これだ。
相手を愛せない。期待に応えられない。相手の気持ちを踏みにじるのは嫌だ。
「空、じゃあね」
「またな」
貴方のいつも通りの無表情が、痛ましげに歪んだように見えたのは……きっと気のせい。
三分程歩いた頃だ。途中でいきなり腕を掴まれ、無理矢理つれていこうとされた。そいつの視線の先にはホテルがあって、その時ようやく意図を理解した。したくもなかったが。
そして、冒頭に戻る。
ずり、とまた少し前に進む。流石、大人の男の力。相手が酔っているとは言え、泥酔してる訳ではない。俺は筋力皆無だし、抗える訳もなく。
今は全力で後ろに体重を掛けて耐えてるが、長くは無理だろう。
「大人しく、こっち来い‼」
「嫌だ‼」
即答する。
男の手に、一際力が入った。
━━━━━━━━━━突然のことだった。
「咲ッ‼」
その叫び声は、一番好きな、あの人の声。一番聞きたかった、あの人の。
「空?」
俺の前に見えていた男の顔が消える。見慣れた背中が、視界を遮っていた。その人の肩が激しく上下しているのを見て、焦って来てくれたのだと嬉しくなる。
「誰だ、お前?」
怪訝そうな声がした。 っていうか、さっき、俺の隣を空が歩いてたの、覚えてないのか?
空の背中から、怒ってる雰囲気が伝わってくる。
ああ、本当に優しい。俺なんかのために怒ってくれるなんて。
「こいつ、俺の連れなんで。」
有無を言わさずに言い捨て、俺の手を掴む。力強く、それでいて、優しく感じた。
その後は、走った。只ひたすら、走った。止めようとも思わなかった。だって、あんな奴からは一刻も早く離れたかったから。空も、どこに行くのか、言わなかった。無言で走り続けた。
掴まれた俺の手が震えているのが目に入り、怖かったのか、と今更ながらに感じる。
「遊ぶのは止めろ」
彼の背中からは、何を考えているのか読み取れない。だけど、声は強張っていた。
「何で?平気だよ?」
嘘つけ、と自分でも思う。声はぎこちないわ、口から漏れた笑い声は乾いてるわで、説得力が全く無い。
「平気じゃないだろ」
その通り。
「平気だよ」
こんな言葉、信じてくれる筈も無い。信じる奴、いるのかな。
「まだ遊ぶのか?」
「愛してくれるなら」
本当のことだ。愛してくれるならば、デートだってする。嫌いな人に愛を囁きだってする。
相手だって、遊びだと認識しているからだ。本気の人と遊ぶつもりはない。
「じゃあ!」
「俺が!愛してやる‼」
怒鳴るように告げられた言葉の意味を飲み込めなくて、へ、と間抜けな声を出してしまった。
ぴたりと足が止まった。空が振り向き、理解出来ないとでも言いたげな顔をする。俺もそんな顔してんだろうけど。
「空が?」
じわりと赤に染まる顔を隠すように口許を押さえる。空も赤くなっていた。
「……良いの?」
愛してくれるの?とは言えなかった。
「ああ」
迷いなく、はっきりと告げた。
空の目が、俺で良いのか、と聞いてくる。
それで良い。
俺は……他でもない、空に愛されたい。
他でもない、空を愛したい。
……初めて恋をした、貴方を。
きっと貴方は、こんな俺を哀れんでくれて、愛してやると言ったのだろう。
本当は愛してないんだろ?
いや、愛してるのかもしれない。でも、友達としてだろう。
俺への感情はきっと、友情。友達としての、愛。
俺が望む愛じゃないけど……これは愛だ。哀れみでも良いから、愛してほしい。
貴方に。
「ありがとう、空」
空の顔の赤みが強くなった。
さっと目を逸らされる。
……何かしたかな?
「もう、遊ぶのは止めろよ」
「うん」
ゆっくりと、歩幅を合わせて歩く。
空の手を無意識に握った。握った直後、何をしてるんだと焦ったけど、焦る必要は無かった。
空も、握り返してくれたから。
「空、明日からまた、よろしくね」
「よろしくな、咲」
名前を呼ばれただけで、こんなに嬉しくなるなんて……どんだけベタ惚れなんだよ。
繋いだ手が、暖かかった。

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