ケータイ小説 野いちご

BADEND

始まり

初めて会ったときは、結構どうでも良かった。
……もしかしたら気になってはいたのかも知れないが、当時の俺はまだ、それに気が付いていなかった。

「それでね、……」
俺の一歩先を歩いている男の話に、適当に相槌を打つ。
「へぇ、そうなんだ」
なるべく、笑顔で。
真面目に聞いているように見えるよう、楽しそうに。
「……?」
人とすれ違った。人通りの少ないこの道では、珍しい出来事だ。顔を見る暇もなかったが、興味もないし、どうでもいい。
白い息を吐き出した。溜め息と共に。
空を仰ぐ。鉛色の空は、気分が沈むから嫌いだった。心なしか、景色も灰色に見えるから、不思議だ。
信号を待つために立ち止まったとき、ふと背後からの視線を感じ、後ろを見る。隣で喋り続けている、名前も知らない男にばれないように。
そこには、男がいた。
いや、まだ少年と言うべき年齢だろう。学ランの上から、コートを纏っている。俺と同い年くらいか。
寒さからか、鼻の頭が微かに赤くなっている。栗色の髪がさらさらと風に靡いた。真っ直ぐな瞳が、少し眩しい。
その少年以外に人がいないから、視線の正体は、そいつで間違いないだろう。もしかしたら、すれ違ったのも彼かもしれない。
「……」
目が合ったから、笑顔を返した。特に理由はない。
驚いたように呆然と立ち尽くす少年。頬が赤くなっているのは、北風が吹いたからだろうか。
普段はこんなことしないのに、その少年にはしてしまった。なんで笑ったのか、理由を考えようとして、止めた。どうせ関係無い。
「ちょっと、聞いてる?」
「えー、聞いてるよ」
慌てて顔の向きを戻し、笑顔を貼りつける。先程少年に向けたものとは違う、偽物の仮面。
「カフェでも行こうか」
「いいね。楽しみ!」
自分でも吐き気がする、媚びた声。でも、仕方ない。この人は、遊んでる間だけ、愛してくれるから。
「君のこと、愛してるよ」
「嬉しいなぁ。お兄さん、僕もだよ」
形だけ……張りぼての愛を囁く。
こんな人、愛してなんかない。……いや、誰かを愛したことがあったっけ。
この場面を見たら、親は心配するだろうか。
こんな俺を、叱るだろうか。
きっと、怒ってくれるのだろう。俺の為を思って。
後ろめたくない訳ではない。
ばれたら、どうしようか。
まあいい。
今は、こいつに愛してもらおう。
俺は唇の端を吊り上げ、着ていた黒いコートの袖を擦り合わせた。

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