緒川清華(おがわ さやか)。

25歳で営業事務。

ごくごく普通のOLで、これといった取り柄もない。

そんな私の上司は仕事一筋。

仕事以外のことには関心がないらしい。



「天野課長、カッコいいよね~」

「ホント!仕事は出来るし、イケメンだし!」

「彼女いるのかな?」

「いるでしょ~。じゃないと誘い断ったりしないよ~」

「残念~。でも目の保養にはなる~」



社内のそこかしこで女性社員たちの話題にのぼる有名人。

他部署の女性社員たちからのお誘いが後を絶たないが、彼はことごとく断っている。

天野恭平(あまの きょうへい)。

35歳で営業課長。

私の上司である。

「緒川、これ頼む」

「はい」

私は分厚いファイルを受け取り、自分のデスクに戻ると、こっそり溜め息をついた。

これは、残業確定かな。

私のデスクには未処理のファイルが積み上がっている。

それらを片付けるだけで精一杯だったけれど、たった今上司から頼まれた仕事もしなければならない。