【僕らは今日も、】




 雑貨屋で働いている彼女の休日は不定期で、暦通りに働く会社員の僕とは、生活サイクルが合わないことのほうが多い。

 でも最近はスタッフたちの都合で朝番に多く入っているらしく、仕事帰りに僕の部屋に来ることも増えた。一緒に夕飯を食べて、借りてきたDVDを観て、他愛のない雑談をして……。そのまま泊まっていくこともしばしば。

 そうして僕の部屋には彼女の服や歯ブラシや食器が、少しずつ増えていく。それを見る度にやにやして、幸せを噛み締める。そのせいか最近ちょっと太った。もう新婚の先輩に「幸せ太りですか?」と言ってからかうことはできない。


 今日も仕事帰りに大きな買い物袋を抱えてやって来た彼女と夕飯を食べて、今日はバレンタインだからとデザートに手作りなめらかプリンまで付いて、「最近ちょっと太ったよ」「気のせい気のせい、小林くん昔から細いよ」「笹井さんの手料理が美味いせいだと思うんだよね」「じゃあ次回は虫料理を作るね」「どうせ美味しく料理しちゃうんでしょ」「味付けなしで素材の味を活かすわ」なんて、他愛ない雑談をしたあと。

 時刻はもう二十二時を過ぎていて、そろそろ寝る準備をしなくてはならない。

「泊まっていけばいいよ」

 時刻を確認していた彼女に声をかけると「そんなに頻繁に泊まっていいのかなぁ」と眉を下げる。

「いいのいいの。この間泊まったときに置いていった服もあるし」

 良いどころじゃなく、良いのだ。
 うちから最寄り駅まで徒歩十分、彼女の最寄り駅まで電車で二十分、そこから部屋まで徒歩五分。計三十五分もかかる。こんな夜に、彼女ひとりで三十五分の道のりはちょっと危険だ。だから彼女さえ良ければ、どんどんうちに泊まってほしい。なんならそろそろ一緒に暮らしても良いんじゃないかとすら思っている。