眠りから醒めた時、街はすでに音の無い雨に包まれていた。
幾重にも滲んだシグナルの淡い光が、イルミネーションの様に甘く水彩画の窓を彩っている。
僕はベッドの側に置いていたコードレスの受話器に手を伸ばすと、ボイスメモリーに切り替えた。
無言の通信音が、彼女の約束を隠しているかの様に短く切れる。
僕は気分を変える為、シャワーを浴びようと部屋のノブに手をかけた時、ドアのレターケースにメモの様な何かが挟んである事に気付いた。
電話の掛らなかった謎が、その中の2行に記されている。

“昨日はごめんなさい。
無理な約束はしたくないから電話はしなかったの”

確かに、彼女と交わしたのは約束ではなく、他愛のないジョークには違いなかった…