「彼氏はいるのか」


総務から戻ると、いきなり紫苑から問われた。


「はあ!?何?」


眉間に皺を寄せながら部屋の中央に鎮座する紫苑を見つめる。

急に何を言いだすのか…と呆れ気味に眺め返していると、「いや、いいんだ」と断ってきた。


「別にいい。ちょっと気になっただけだから」


怪訝そうにしてたからだろうか、「答えなくてもいい」と言いだす。

いきなり訊いてきて直ぐにそう断られるのもどうかあるんだけど、紫苑は素知らぬ顔で仕事を再開しだしたから、理由を聞くのも妙だと思い……。


(何よ、あれ)


呆気に取られてたんだが、別に答えなくてもいいならいいか…と頭を切り替える。

椅子を引いて座ると総務から持って帰った資料のコピーを見て思い出したことがあり、再び中央に座る紫苑へと向かって「ねえ」と声をかけ直した。


「今しがた柴原さんから言われたんだけど」


人事担当者の名前を出すと、ディスプレーを見ていた視線が流されてくる。


「金曜日の夜に私の歓迎会をしたいらしくて、し…社長の都合はどうかと聞かれたんだけど…」