「…だからね紫苑、聞いてる?」


開いた窓から五月の爽やかな風が舞い込む日曜日の朝、私は三軒隣りに住む幼馴染みの部屋を訪れていた。


「何だよ萌音、俺はまだ寝てんのに…」


黒いベッドカバーの中にいる三歳年上の幼馴染み、伊川紫苑はモゾモゾとイモムシのように動いていた。


「だからね、弟の蓮也(れんや)が、いきなり情報専門学校に通うって言い出したの!
あの子、この春にようやく大学を卒業したばかりなのよ!?なのに、職にも就かないで専門学校だよ!?専門学校!!」


何考えてんだろ!?って大きな声を出しながら捲し立てていると、イモムシが殻を脱ぎ捨てるように、紫苑がのそっ…と顔を出した。


「あぁ?いいだろ、別に専門学校くらい通ったって」


寝呆け半分で答える紫苑の髪の毛には寝癖が付いてて、私はそれを眺めながらイモムシの触覚のようだ…と考えていた。


「冗談じゃないよ!専門学校に行くって言ってもタダで行ける訳じゃないんだよ!?
お金がかかるんだよ!お金が!」