春に出会った、名前の知らない女子を何となく、可愛いなと思っていた。だけど同じクラスになってからすぐに「イヤな女」だと思い知らされた。そしてそれからは──


あれは、気持ちまでが沈みそうになるほどの、雨の日のことだった。
放課後、用事を済ませた俺は帰ろうと外履きに履き替えていた時、そこにはスクールカースト上位で派手系女子で、俺とは全く縁のない佐伯真由が立っていた、どうしたのかと思ったが、すぐに表情をみて察することができた。
「あー…傘、忘れたのか。」
そう呟くと、そういえば置き傘があることを思い出した、哉は何となく、何の他意も、一切のふくみもなく
「あの⋯⋯、傘、忘れたんなら、貸すよ、使いな。」
そう言うと、彼女は怪訝そうに答えた。
「⋯⋯いい、いらない、てか、こういうことやめてくれない?」
ナチュラルだが、化粧をしているせいか、綺麗に整った顔立ち。きめ細やかで、透き通る肌、少し開けたシャツの首に綺麗な鎖骨その上に、オシャレなネックレスが見え隠れしている。この綺麗で小さな顔に、冷たい一言で突き放さられた。
「え⋯⋯」
彼が呆気に取られていると、彼女は待っていたであろう、同じグループで仲のイイ友達に、先程とは打って変わってすごく可愛らしい笑顔で「ねーねー、傘忘れちゃってさ、入れてくんない?」と頼み込んだ。するとその女子は、「えー、しょうがないなー、どうぞー」と傘を開いて入れてあげて、そのまま、二人は歩き出して帰っていった。狭いのか、少しフラフラしていた。
「じゃね、バイバイ~」
後ろの方で、帰り支度を済ませた他の女生徒の声がした。それと同時に近くで、女子の笑い声が聞こえた、クスクスと人を馬鹿にしてるような、傘を貸そうと断られたことを嘲笑っているのかもしれない。
(なんなんだよ、くそ⋯⋯!)
別に下心があったり、カッコつけたかったわけじゃない。ただ⋯、純粋に困っているなら、助けたいと思った。なのに、親切心で申し出ただけなのに、何故そんなに迷惑がられなくてはならなかったのか。とんだ、恥晒しだ。友達と同じ傘に入って笑いながら帰る佐伯の小さくなる後ろ姿を見ると、心が猫に引っ掻かれたみたいにヒリヒリして凄く熱く、その熱が心を掻き乱していく。
彼は、その時から、あんな女とは二度とかかわりあいたくないと⋯!胸に誓ったのだった。