「ちょっと律華、どうして電話繋がらないのよ?」

「蓉子さん、すみません。スマホなくて…」

朝イチで蓉子さんは法務部のフロアにやって来た。

「なくしたの?」

「いえ、そうではなくて…」

なんと言ったらいいのか…。

曖昧に笑って誤魔化すしかない。

そんな時に、この人は現れるわけで…。

「安住さん、おはよう」

「西条先生、おはようございます」

「あら、西条先生。おはようございます」

蓉子さんがニヤリと笑ったのは、見なかったことに…。

「安住さん、はい、これ」

西条先生から手渡されたスマホを握りしめて俯いた。

「ありがとう、ございます…」

西条先生は背を屈めて小声で囁いた。

「ベッドの上に置いてくなんて、ドジだなぁ」

「は!?」

小声とはいえ、周りには確実に聞こえる声で。

「あらやだ。なんだ、そういうことなのね?」

「蓉子さん!そうじゃなくて!」