「なぎちゃん、なぎちゃん」

台所にいるおばあちゃんからの呼びかけに、居間の食卓で課題を広げていた私は立ち上がった。

「なにー?」

台所を覗きこむと、おばあちゃんが調理台で鰹節を削りながら振り向いた。

「今、勉強中かね。手が空いとったら、ちょっと手伝ってくれんね」
「ん、大丈夫だよ」
「ありがとね。じゃあ、煮干しをお願いね」
「はーい」

おばあちゃんが指差した作業台の上には、山盛りの煮干しが置かれていた。


私は椅子に腰かけ、煮干しをつまんで頭と腹をちぎりとっていく。

いつもやっている手伝いなので、慣れたものだ。

おばあちゃんが鰹節を削るごりごりという音が耳に心地いい。


午前中はよく光が入るので、照明はつけていない。

少し薄暗い台所は、開け放った勝手口から網戸を通り抜けた風が吹きこんできてとても涼しい。

蝉の鳴き声がどこからか聞こえてくる。


夏の休日の朝が、私は大好きだ。

穏やかで、さわやかで、光に満ちている。


煮干しの頭と腹をとり終わったとき、鰹節削りを終えたおばあちゃんがつわぶきの皮を剥きはじめたので、私も横に並んだ。

「なぎちゃんはいいよ」
「ううん、やるよ」
「手が汚れてまうよ」
「気にしない、気にしない」

前までは、灰汁の強いつわぶきの皮を剥くと指先が黒くなるのが嫌で、手伝いを断っていた。

何度洗ってもとれないから、友達に見られたりすると恥ずかしかったのだ。

おばあちゃんと暮らしているから、古くさいことをしていると思われるのが恥ずかしかった。