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「ねえねえ、あそこの人……!」
「え? どれどれ?」


カウンター席に座る女性のお客さんふたりが、こそこそと声を潜めて囁き合い、小さく振り向いた。

ひとりが躊躇いがちにさした指の行き先には、窓の外をぼんやりと眺めながらコーヒーをすする男性客の姿。
注目を浴びていることになんてちっとも気付く素振りもなく、読みかけの雑誌をパタリと閉じて、かけていたメガネを外した。


「うわぁ、メガネとったらますますイケメン!」
「ほんとだー! 目の保養になるね」


ふたりの女性客は交互に耳打ちし合い、目を輝かせて窓際の席に座るその男性客を再びチラ見した。

……こんな偶然って、あるのでしょうか?

夢でもみてる気分だった。

さっきから、エプロンの奥から浮かび上がってきそうなくらい心臓をドキドキさせている私に、キッチンで洗い物をしている智兄が不思議そうな目を送ってくる。

私はコホンと咳払いをし、なるべく平静を装った。
ランチを終えた年配のお客さんが席を立ったので、お会計するためにレジ前に立った。


「スティックチーズケーキ、持ち帰りたいんですけど」
「あ、はい! ありがとうございます」


レジ前の籠の中に、ひとつひとつ透明のビニールで個装されて置かれたスティックチーズケーキを、お客さんがいくつか選ぶ。
私はそれを紙袋に入れ、お代をいただくと丁寧に手渡した。