「羊。困ったことがあったら、一人で抱え込まずに相談するんだよ」


昼休みの教室。
カナちゃんは私の両手を力強く握ると、そう告げた。


「え? ええと、どうしたの急に?」


あかりちゃんはといえば、慈悲深い眼差しをこちらに向けている。

二人のただならぬ様子に引き攣った笑みを浮かべていると、カナちゃんが切り込んできた。


「今朝、狼谷くんと一緒だったでしょ。大丈夫? 何もされてない?」


ようやく合点がいって、ああ、と天井を仰ぐ。

狼谷くんの方は朝から女の子たちに質問攻めされていたけれど、私は特に何も聞かれなかった。
というよりも、気を遣って誰も聞いてこなかったのだと思う。


「脅されてたりしないよね? 弱み握られた?」

「物騒だなあ……」


ぐっと身を乗り出して問うてくるあかりちゃんに、苦笑してしまう。


「だってびっくりするでしょ。ドジでおマヌケで可愛いうちの羊が、あの問題児と登校してくるんだもん」


ん? なんか私、馬鹿にされてない?
肩をすくめるあかりちゃんを横目に、私は紙パックのイチゴミルクを啜った。

問題児、とはよく言ったものだ。
確かに狼谷くんとまともに話せるのは津山くんぐらいだろうし。


「いやぶっちゃけ、狼に捕食された羊の図だったよ。あれは」