「未紘、帰ったの? ご飯よー」


リビングからかけられるお母さんの声に答える間もなく、私はローファーを脱ぎ捨て、廊下を全速力で駆け抜けた。


そして階段を駆け上がり、自室に入ると、バタンと大きな音を立ててドアを閉める。


途端に張りつめていた糸が緩むかのように足の力が抜けて、私は電気もつけないままドアの前で膝を抱えた。


歌えなかった。

やっぱり私にはむりだった。


あのあと何度も謝る私に、鞘橋さんを始め軽音部の人たちは大丈夫だよと声をかけてくれた。


『君に声をかけた俺たちが悪いんだ』


肩をぽんと叩かれながらかけられた言葉に、失望されたのだということを思い知った。


人にどう思われようが構わなかったのに。

どうして今は、こんなにも胸が痛むのだろう。