私は目覚まし時計の音で目を覚ます。

「花凛ー!学校遅刻するよー!今日始業式でしょ?」

お母さんは私の耳元で叫ぶ。鼓膜破れちゃうじゃない。

「わかってるよー〜〜もう起きてるから。」

母の叫び声で目を覚まし、朝食を食べ、眠気を抱えながら学校へ向かう。休みが終わってしまうことへの憂鬱をかかえて。

この日はいつも通りだった。毎年同じはずの始業式の日。

あの子に出会うまでは。

私は今、長い長い校長先生の話を聞いている。

こいつの話、本当にオチがない。

長い欠伸をすると、隣の明里が意地の悪い笑みを浮かべる。

「花凛って、欠伸するとき、マヌケ顔よねー(笑)。」

私は煩いと言わんばかりに、明里を肘で小突いた。

こんなやり取りも日常茶飯事だったんだけど。

「えー、では、皆さんに転校生を紹介します。どうぞ、壇上に上がって。」

転校生。

ただでさえ、みんなの注目を浴びる存在。

だけど、その子は、必要以上の注目を浴びていた。

なぜなら。

「なんで、あの子、紙とペン、もってるの?」

彼女はテレビ番組でよくみるカンペに使うような、スケッチブックらしきノートを持っている。

彼女は無表情。

「なんか、かわいいね。」

明里があっけにとられたように囁く。

長い黒髪。大きな二重の瞳。すらっと伸びた手足。白い肌。

彼女は、全国の女子が羨ましがり、嫉妬するほど美しかった。

まるで童話の世界から飛び出したように。

ざわつく体育館。みんなが壇上の転校生に釘付けだ。

そんな中、彼女は不思議な行動を始めた。

彼女はスケッチブックを手に取り、ペンで何かを書く。

そしてそれをこちらに向けた。

「見えないよ。あれ。」

明里の言う通り、いくら目が良くても、遠すぎて、あの文字は読めない。

すると、私のクラスの担任、森野が、彼女の隣に立った。

そして、こう言った。

「えー、私の名前は朝比奈 舞です。私は1年4組に転校します。宜しくお願いします。と書かれています。皆さん、仲良くしてあげてください。」

みんなの不審がる視線を浴びながら、舞と森野が壇上から降りる。

「は?なにあれ。もしかして、あの子、話せないの?」

明里が怪訝な口調で言う。

ざわめきはしばらく治らなかった。

「しかもうちらのクラスに転校してくるんじゃん。めんどくさ。」

明里が吐き捨てるように言う。

耳が聞こえないのか。私は深くため息をつく。

それが舞と私の出会いだ。