今日の仕事を終え、私は一足先に帰宅してリビングのテーブルでひとりパソコンに向かっていた。

時刻は二十二時。

――今夜は早く帰れると思うから、その時に話は聞こう。

剣持部長の早く帰れるという時間とは、いったい何時のことなのだろう。そんなことを思いながら私は一向に進まない企画書とにらめっこしていた。
するとその時、玄関の方から物音がして剣持部長が帰ってきた。

「お、お帰りなさい」

「ただいま」

今まですれ違いだったため、なんとなく新婚夫婦らしい雰囲気に気恥ずかしくなってしまう。けれど、そんな私とは違って彼はいたって普通でジャケットを脱ぐとソファの背もたれにバサッと無造作にかけた。そしてネクタイを緩める剣持部長の表情は、どことなく疲れているみたいだ。

「あの、なにか夕食は食べましたか?」

「あぁ、今日は夕方から接待だったんだ。すまないな、もっと早く帰る予定だったんだが」

接待はたぶん、剣持部長が一番嫌いな仕事のひとつだ。先方のご機嫌をとって作り笑いをするのも疲労になる。彼はハァと深く息をつくとそのままソファにもたれかかった。