「ほら、着いたぞ」

夫の車から降り、目の前に建つ築60年はするであろう実家を見遣る。何度か優愛を連れて里帰りはしていたが、今日からはここがまた自分の家だと思うと少しは安心する。育ててくれた祖母に電話したら「帰ってこい」と言ってくれたからだ。

「ばばーじじー」

優愛が走って中に入り靴を脱ぎ捨て祖父母に会いに行く。二人とも笑いながら優愛を撫で、可愛がっている。

「ほら早く荷物運ぶんだろ」

「うん…」

自分達の荷物を運びながら二階に上っていく。懐かしい。ここは元々今は一人暮らししている姉の自室だった。今日からは自分が使うことになる。

「もっときびきび動けよ」

そんな事言われても体が思うように動いてくれないのだ。人の声も、テレビの音さえも耳を塞ぎたくなるほどに煩わしい。音楽なんてもってのほかであった。

「優愛は遊んでてね」

「うん!」

元気に返事をした優愛はそのまま祖父母と部屋で遊んでいた。