夫からの威圧、家族からの理解が得られない苦しみ、優愛にキツく当たってしまう自分の不甲斐なさで日に日に優里は追い詰められていた。この辛さを、苦しみをどこかにぶつけたくて何度も自傷行為をし、優愛を必要以上に怒鳴り散らし、薬の副作用とストレスの捌け口として過剰に食べ物を食べてしまう毎日。何度死にたいと思ったか……いや、毎日そればかり考えている。既に今の自分は昔の面影などなく、痩せ型だった体重も倍近くに増えていた。そんなある日、夫からこう切り出された。

「もう我慢出来ねえ。俺の実家で病気が治るまで療養するか離婚するかどっちか選べ」

一度自分の子供を無理やり堕ろさせた人間と一緒に暮らせというのかこの男は。療養どころか地獄の誘いである。かと言って離婚すれば優愛に負担がかかる。どうすればいいのか…。選択を迫った本人は何食わぬ顔で仕事に行ってしまった。そして優愛が起きてきた。

「……ママ、どうしたの?」

自分の様子を見てどこかおかしいと感じたのだろう、そう問いかけてくる。

「……ねえ優愛、パパと離婚しちゃうかもしれない」

気がついたらそう口にしていた。しまった、まだ4歳の子供になんて事を…。

「離婚ってなあに?」

でも言ったものは取り消せはしない。少し口篭りながらも説明する。

「離婚っていうのはね……パパと離れて暮らすってことだよ。もう会えないかもしれないの」

こんな事を聞いてどう思うだろうか。悲しまないわけがない。しかしその予想は見事に覆った。

「良いよ!私ママがいればいいもん!ママ辛いんでしょ?私パパ嫌いだもん!離婚しちゃおうよ!」

まさかわが子に離婚の後押しされるとは思わず驚いた。それ程までに父親に怯えていたのか。いやそれとも、自分の事を考えて言ってくれたのだろうか。多分どっちもだろう。

「本当にいいの?」

「うん!」

元気よく頷く優愛を見て、優里は夫と別れる決意をした。