まさかこんな事態になるなんて、想像さえしていなかった。

“ごめんなさい
零士さんとは結婚できません
さようなら”

朝起きたら、そんな書き置きと共に鈴乃が姿を消していた。

「鈴乃!!」

血相を変えて部屋中を探し回るもどこにもいない。
彼女の服も私物もそっくりなくなっていた。


「どうしたの!?」

ただならぬ様子に麻里奈がリビングから飛び出してきた。

「鈴乃が出ていった」

「えっ! どうして?」

「分からない」

麻里奈に鈴乃の書いたメモを見せる。

「本当に心辺りないの?」

「ないよ。今日俺の家族に会うのだって楽しみにしてくれてたし」

「電話は?」

「全く繋がらない」

「そっか……どうしたんだろうね」

「ちょっと鈴乃のアパートに行ってくる」

車のキーを握り玄関へと向かうと、麻里奈が追いかけてきた。

「ねえ、私も行こうか?」

「いいよ。おまえはうちの実家に行っとけよ。昨日、兄貴にメールで事情伝えといたから」

「えっ……そうなの? やだ……大丈夫かな、私。ちゃんと上手く言えるかな。ねえ、英士は私のことなんて言ってた?」

俺の腕を掴みながら、モジモジし始めた麻里奈にちょっとイラッとする。
今はさすがにこいつの世話まで焼いていられない。

「おまえらはしっかり両想いだよ。とにかく、俺もう行くから、後は自分達で上手くやってくれ」

俺は麻里奈にそう言い残し、鈴乃の元へと急いだのだった。