「仙道さん、最近ずいぶん印象変わりましたね」

零士さんとの恋が叶って一カ月。

私は会社の男性社員から、よくそんな言葉をかけられるようになった。

今日は営業部のエース杉田さんだ。
エレベーターの中で突然言われたのだけど、入社以来、一度も話したことのない相手だから、やっぱり緊張してしまう。

今までの私に比べれば大分改善はしたものの、この人見知りな性格だけは治っていなかった。

「そ、そうですか」

「ええ。凄く綺麗になりましたよ」

「い…いえ…そんな」

あたふたしていると、杉田さんが私の耳もとで呟いた。

「もしよかったら、今度食事でもどうですか」

「え?」

「考えておいて下さいね」

杉田さんは私に微笑みながら、エレベーターを降りて行っった。


「もしかして今、杉田さんに口説かれてました?」

ちょうど入れ替わるように乗ってきた倉本さんが、私の顔をジッと見つめてきた。

「うーん。どうだろう。よく分からない」

別に二人きりでと言われた訳じゃないし。
ただの社交辞令だとしたら杉田さんにも失礼だ。

首を傾げていると、エレベーターは食堂のあるフロアに到着した。

倉本さんは歩き出しながら、私にため息をつく。

「仙道さん、気をつけて下さいね。最近、仙道さんが綺麗になったから皆な狙ってるんですよ。ちゃんと婚約者がいるってハッキリ断った方がいいですよ」

「こ…婚約者って」

思わず顔が熱くなる。

「そこ照れる所じゃないんですけど」

倉本さんは呆れながら私を見た。

「だって…いきなり婚約者だなんて言うから」

「結婚前提にって言われたんだから、婚約者で合ってますよね」

「う、うん…まあ、そうなんだけどね」

モジモジする私に、倉本さんがハッキリとこう告げる。

「とにかく、ちゃんと私は忠告しましたからね! あとは自己責任でどうぞ」

ジロリと睨まれてしまった。
仕事以外ではこうしてすっかり先輩のような倉本さんだけど、彼女には本当に感謝しているのだ。

今となっては、一番の理解者だから。

「はい。肝に銘じておきます」

そんなやり取りをしていると、私のスマホにラインが入った。

送り主は零士さん。
毎日、お昼休みになると、こうしてラインをよこしてくるのだ。