週明けの月曜日。
朝の廊下ですれ違った5つ後輩の倉本さんが、私の顔を二度見した。

「あっ? 仙道さん! コンタクトにしたんですか?」

そう。
私は今日、いつもの黒縁眼鏡をかけていない。
新しい自分に一歩前進するためだ。

「ううん。いつもの眼鏡は度が入っていないから」

首を振る私に、彼女はニヤリと笑った。

「へぇ~、もしかして。仙道さん、好きな人でも出来たんですか~?」

と、彼女が言い出したところで、後ろから来た青山主任が
彼女の頭をパコンと叩いた。

「コラ、倉本! 仙道さんに失礼なこと言うなよ」

「え? 別に失礼なことなんて言ってませんけど~」

「あのな、倉本。仙道さんはおまえみたいに、いつも頭の中がお花畑じゃないんだよ」

「何ですか、それ。ひっど~い」

「ひどいのはおまえの髪の方だ。寝ぐせついてるぞ」

この二人は恐らく相思相愛だと思う。
いつもこんな風に喧嘩をしながら、じゃれ合っているのだけれど。

「プッ」

思わずおかしくて吹きだしてしまった。

「え!」
「おお…」

二人がポカンと口を開けて私を見ていた。

「あっ……」

何だか急に恥ずかしくなり俯く私。
すると、倉本さんが声を上げて私の腕を摑んできた。

「うわあ~~。仙道さんも笑えるんですね~~!」

再び青山主任が、持っていた資料で倉本さんの頭をパコンと叩いた。

「だから、おまえは失礼だっつーの!!」

「いや、だって~。仙道さんが笑ってくれたんですもーん」

「はいはい。分かったから、おまえは早く出る準備してこい! とっくに時間過ぎてるぞ」

「え! あっ、いっけない。すぐ準備してきまーす」

青山主任の言葉に、倉本さんは慌てて走り去って行った。

「仙道さん、ごめんね。あいつ悪気とか全然ないからさ。いつも仙道さんのこと、綺麗なのに勿体ないって言ってたんだよ。ちょっと馴れ馴れしい奴だけど嫌いにならないでやってね」

「はい…もちろんです」

私は大きく頷いた。

きっと今まで見えていなかった世界が、たくさんあるのかもしれない。

眼鏡を外したら、それが少しずつ見えてくるような気がした。