昔々泣いたのは、世界で一番好きな人を失ってしまったからだった。


泣いて泣いて津田に電波を飛ばし、その事を言うとそいつは2時間半かかるけど、と少し黙って、それからまた口を開き、今からお前の家まで行ってやるから。


そんな嘘みたいな電波を送り返したのもまたその日だった。


だから津田はわたしにとってヒーロー。いつでもわたしを救ってくれる。どんな時も。






それから4年後、津田のうちの玄関に入ると、急に降った雨のせいで濡れた肩を、津田に抱かれた。


ゆっくりで、なんとなく、伸ばされた腕をわたしは感じながら向かい合って目を合わせるとそれより早く腰に手を当てられる。


天気予報で雨は夕方から降るでしょう。と言われていたから、傘は持ってきていたけれど、車を置いたガレージから玄関に着くまで傘をさす必要の無い距離だと思い、わたしは走り出した。


津田は多分わたしが傘を持っていた事を知らなかったのだと思う。


電気もつけてない玄関にビニール傘が無造作に置いてあったのを津田の肩越しから見て、目配せするみたいにわたしも濡れた津田の背中にゆっくり手のひらを首のつけね、襟足まで持っていく。


好きなのかもしれない。そう感じていた。


体に染みた雨が2人の体温を、当たり前みたいに奪いながら、今わたしと津田の真ん中にはゆっくりあたたかくなっている熱がある。


それでただ、ああ愛されているのだな、とわたしはそう思った。