風が吹いている。


緩やかになびく長い髪を揺らし、まるで舞っているかのような軽快な動きで男たちを次々と倒していくその光景は本当に圧巻と言うべきもので。

周囲にいた者たちは、皆がその姿に魅了されるように呆然とその場に立ち尽くし、成り行きを見守っていた。


だが、ただ一人。桐生だけは違った。

今までなら、皆と同じようにその勇ましく美しい姿に感嘆の声を上げていたかも知れない。

だが、今は驚きの眼差しで。少女のある一部分だけに視線が注がれている。

左腕に巻かれた、白い包帯。

あれと同じようなものを最近見た。

(…まさか、な?)

怪我をしている人物なんて幾らでもいる。それが偶然同じ部位であっても特別おかしいことはない。

長い髪が揺れる。

(アイツも髪をほどいたら、あの位の長さになるだろうか?)

二つに分けた揺れる三つ編みが目に浮かぶ。だが…。

(それこそ髪が長い奴だって、腐る程いるさ)

相変わらず揺れ動く髪に邪魔されて、その表情が絶妙なタイミングで見えない。

背格好は…同じくらいだろうか。

だが、特別大きくも小さくもない、よくいる女子の平均のような感じで特徴など何もない。

そんなことを考えている内に、十三人程いた男たちは次々と地に倒され、残り僅か三人となっていた。

三人は一対一では勝てないことを察し、少女を取り囲み集中攻撃に出ている。一人が繰り出した蹴りを少女は左手の甲で受け止め、すかさず別の一人の鳩尾に一撃を食らわし、ダウンさせる。

残り、二人。


だが、それを見ていた桐生はあることを思い出した。