別荘の二階のベランダと、枇杷(びわ)の木の間に蜘蛛が、やや大きめの罠を張った。
黒と黄色の肢体が夏空に映えている。
蜘蛛は、誇らしげに自らの罠の出来映えに、満足している様子だ。
しばらくすると蜘蛛は、罠の端の葉影にスルスルと這って行き、糸の張り具合を確かめるように、罠全体を大きく揺らした。
やがて僕の存在に気がつくと、蜘蛛はじっと様子をうかがい、息を潜めていた。
(人間の奴め、うすのろなクセに、すぐに俺の狩りの邪魔ばかりしやがる。この前だって、俺が半日もかけてこしらえた罠を、四角い棒きれで壊しやがって)
「おい、あっち行きやがれ!」

僕は、子供の頃から、彼らを見ているのが好きだった。
たまに、彼らの作った罠を、綿あめのように割り箸に巻きつけ、彼らの慌てぶりを楽しんだりしていた。
決して彼らを嫌っている訳ではない。
むしろ、彼らには愛着を覚えている。
30才を過ぎた今でも、僕は夏になると、この別荘に来て、ベランダに腰かけ、ウイスキーをやりながら、彼らのご機嫌を伺った。