勢い良く扉を開けて入ったのは演劇部の部室。
 壁には多くの小道具が置かれ、きれいに整頓されている。
 演劇の大道具と称して運び込んだ妙に豪華な応接セットの3人掛けソファには、部長である蒼が思案顔で座っていた。
 机の上にあるのは柚莉花が書いた小説のコピーだ。
「どうした?」
 不機嫌さを隠そうとしない智博に声をかけるが、彼は無言のまま蒼の横に座ると、溜息をついた。
「どうした?」
 同じ問いを繰り返す。
 ソファの肘掛に足を投げ出し、蒼に背を向けもたれかかった姿勢で智博が口を開く。
「桜に追い出された」
「そう」
「何だよ」
 蒼が小さく笑ったのを背中越しに感じ取る。
「やけに慎重だな、と」
「だって、初めてだもん。俺から欲しいと思ったのは」
 幼い頃から劇団に入っていた彼の周囲は寄ってくる女の子がたくさんいた。
それなりに恋愛を楽しんだりもしてきたのだが、1年前、彼女に会うまでは自らが進んで求めることなどなかったのだ。