その夜、未歩の家に泊まることになった。
 未歩はお泊り会が好きだ。私も二ヶ月に一回くらいのペースで呼ばれている。
 明日は第二土曜日で学校が休みだから、そっちのほうの心配はいらなかった。
 未歩の部屋はあいかわらずピンクだった。
 カーペットもカーテンもいすもテーブルもクローゼットも、もうありとあらゆるものが桃色だった。
 柄もいろいろあって、ギンガムチェックだの花柄だのストライプだの無地だの……よくそろえたわね。
 このピンクワールドを壊したくて、去年の誕生日に青い壁掛け時計をプレゼントしたんだけど、しまってあるみたいね。
 それなら今年は、しまえないような大っきいものをあげようじゃないの。
 でも、私の買える範囲でそんなものあるかしら。


「おまたせーっ」
 ピンク地に小花模様のパジャマで現れた未歩は、アイスクリームを二個持っていた。
「私の他にも誰か来るの?」
「ううんっ、どうしてっ?」

 アイスとスプーンがふたつずつ。
 もう少し解説するなら、500ミリリットルのバニラアイスがふたつと、カレーでも食べるような大きめのスプーンが二本。
 ひとつと一本が、私の前に置かれる。

「食べてねーっ。むしゃくしゃするときは、やけ食いややけ酒をするものなのよっ。ちなみにあたしは、やけアイス派よっ」

 ――なるほどね。
 しかし、未歩がやけアイスする理由はあるの? ……ないんだろうな。
 私のためにやってくれているんだろうな。
 今晩、泊まらせてって言ったの、私のほうだし。
 おもむろにふたを取って、未歩にならって私も食べはじめた。
 もちろん、アイスの肴(そんなもの、ふつういらないけど)は毛利航平だ。
 人気者で通っている彼のスキャンダル――私はここぞとばかりに言いたい放題を言った。
 世の中すべての女の子が、彼みたいな男の子に惹かれると思っていたら、大間違いよ。
 男は顔じゃないわ、中身よ。知識と頭脳よ。性格よ。
 告白されたからつきあったんだけど、私にはなんにも残らなかった。
 想い出も、優しい言葉さえも。
 ああ、こんなことなら私のはうから振っとくんだった。
 それだけが心残りだわ。
 悔しいじゃないの。


「毛利くん、私の体が目的だったんだわ。私のあとがまが小田原景子だっていうんだから。それに、川崎くんとはどうなっているんだとか、失礼なこと言ってたし」
 汚らわしいわよ、ゴニョゴニョ……となった私の言葉じりをつかまえて、未歩が身を乗りだしてきた。
「あっ、それ、あたしも知りたいなっ。五時間日の水泳のあと、早智子ちゃん、川崎くんに嫌だ嫌だって言ってたよね。あれ、なんだったの? ひょっとして……」
「ひょっとしてない。つきあってほしいなんて、言われてない」
「……なーんだ。つまんないのっ」
 どうしてこの子はこう短賂的なんでしょう……。