「1月に高橋くんが転校することになりました。残りの少ない時間を大切にして下さいね」

高橋爽は、このご時世には珍しくイケメンだった。
その高橋くんが転校することに、恋する乙女たちは度ほど傷つくだろうか。そう、例えば幼馴染などはその一類だ。
彼女は中学校というこの神聖な場所で、簡単に恋の罠に引っかかってしまった。

「はぁ〜伝えるか伝えないかもう知ってるか....」

私の幼馴染の山田芽衣は少し、いや、かなり過激なストーカー気質である(本人は気づいていなが)そしてその好きな人への変態心はまた、彼女の顔面偏差値によりカバーされている。危なっかしい女だぜ。全く。

机に頬杖をついて、ため息をこぼした。
別に、私は高橋くんが好きってわけじゃないんだ。ただ、あれ程までに高橋くんの全てを知り尽くしている芽衣が聞いたらどうなるか.........高橋くんがこの先生きていけるかが心配だね。もう旦那に行けなくなりそうだ。

「なぁーに、はぁはぁはぁはぁ言ってんの」

「カエレ....」

私のため息が喘ぎに聞こえたのだろうか。
それなら少し精神科に通った方がいい。

妄想も域を超えると病気だからな。

私の顔をじ〜っと眺めて薄ら笑いを浮かべているカエレ。どうしようもなく可愛らしい顔を殴りたくなるが、やめておいた。
この世はPTAに勝てるものはいないからな。

「いや〜?別にはぁはぁとは言ってないよ」

「あーそう?」

「変な妄想すんなよ」

ホームルームが終わって、少しの休憩の時間になったところだ。
私の席までわざわざはぁはぁを伝えに来たのは、親友(だと思っている)岩田カエレ。

彼女もまた、高橋爽に落ちていた。

「バッカみたい」
ボソッと、小さい声で言ったはずなのにカエレには聞こえていたらしい。

「何急に。今日熱あんじゃない?」

「席に帰れカエレ」

「それ言われんの一番好きじゃない」

プゥと頬を膨らませ、怒ったぞ!という表情をする。
私の周りはどうしてこんなにも可愛い子が集まるのか。
ミーをディスっているのと同じだ。


キーンコーンカーンコーン

チャイムがなった。
先生は時間に厳しい。
チャイムが鳴り終わった時に席についていないと痛い痛い目に合う。
私はそんな被害者たちを何人も見たことがある。

「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします」

さて、どう芽衣に伝えるか。ね

私は算数という生きていくうちで最も必要ないのに最も重視されている謎の教科を聞かずにひたすら考えた。

そして私は聞いていないことが先生にバレて職員室に呼ばれる羽目になったのだ。