――雨の音が、聞こえる。
ザーザーと降り注ぐその雫は、容赦なく私に降りかかる。
ひとり立ちすくむ私の前には、背を向けた父親がいた。
『お父……さん?』
私がいつものように呼んでも、お父さんは振り返らない。
ただ雨に濡れて、そこに立っているだけ。
一歩足を踏み出すと、水たまりの雫の音が弾け飛んだ。そんなことも気にせず、また次の一歩、また一歩と踏み出し、走り出した。
けれど全然、お父さんに近づくことはできなくて。
『お父さ……っ』
必死に手を伸ばしても、届かない。何度呼んでも、届かない。
こんなに走ってるのに。お父さんはどんどん遠くなって、雨の中に消えていく。
『待って、お父さん!お願い、いなくならないで!』
お願い。お願い、お願い……!
いなくならないで!