私は…今、拳を握りしめて給湯室にいる。
何故か一人、仁王立ちで。

「髪型よぉーし。服装よぉーし。コーヒーよぉーし…」

そう言って、コポコポと彼のカップにやや温めのコーヒーを注ぐと…。

「自作の、マカロンよぉーし!」

と、呟いてからこれから見られるであろう、彼の表情を思い浮かべてにやりと笑った。
本日セントバレンタインデー。
製菓会社の戦略に見事嵌っているということは分かっていても、普段可愛くなれない私から、愛しの彼へ素直な気持ちを伝えられるならば、そんな戦略に自ら嵌まり込んでしまってもいいよね…?なんて、思った次第です。

「よし!ここで一人騒いでても仕方ないから、行こう!レッツゴー!」

気合いを入れてその場を離れた。
本当は週末に休日出勤の予定が入っているから、その時に…なんて思っていたんだけども。
やっぱり、……当日に渡してみたい訳で…。
そして、彼の反応を見たい訳で…。
要するに、驚かせて素の彼を見たい訳で。
去年はさらっとスマートに彼の方から、

「ほら、これ。ル・シューラのプチシュー。好きだろ?」

なんて、先を越されたけど。
今年はだめなんです。
それじゃあ意味がないの。
だから、会議室に一人で入って行った彼を見付けて、その後を追った。