金曜日の午後6時、終業のチャイムが鳴る。
桜の季節にやってくる繁忙期が終わったので、私は帰り支度を始めていた。
「ちょっといいかな、渡辺さん」
「はい、何でしょうか」
部長に呼ばれて席を立つ。
「来週からなんだが、うちの部に本社から人が来ることにになった。聞いてはいると思うけれど」
「はい・・・日本での販売に力を入れたくて、本社から数名派遣されると聞いています」
この会社は、ノルウェーに本社があるメーカーだ。
主に家具や雑貨を扱っている。
ここは日本支社の企画部である。
「どうやらノルウェーの人じゃないらしく、日本人らしいんだ。向こうで働いてる、日本人」
そう言って、私に1枚の紙を渡す。
「多分、渡辺さんと次の展示会は一緒にやってもらうことになると思うから、先に彼の資料だけ渡しておくね」
そう言って渡された紙には、よく知っている名前と顔があった。
私は動揺していたが、なるべく平静を装った。
(大丈夫・・・きっと彼は気付かない・・・)
「そうなんですね、楽しみにしています」
そう言ってにっこりと営業用の笑顔をつくり、資料を受け取った。
(私は別人として生きている。大丈夫)
何度も何度も、自分に言い聞かせる。
‐神様、できれば時間を戻して欲しい
10年前の、あの日まで。
桜の季節にやってくる繁忙期が終わったので、私は帰り支度を始めていた。
「ちょっといいかな、渡辺さん」
「はい、何でしょうか」
部長に呼ばれて席を立つ。
「来週からなんだが、うちの部に本社から人が来ることにになった。聞いてはいると思うけれど」
「はい・・・日本での販売に力を入れたくて、本社から数名派遣されると聞いています」
この会社は、ノルウェーに本社があるメーカーだ。
主に家具や雑貨を扱っている。
ここは日本支社の企画部である。
「どうやらノルウェーの人じゃないらしく、日本人らしいんだ。向こうで働いてる、日本人」
そう言って、私に1枚の紙を渡す。
「多分、渡辺さんと次の展示会は一緒にやってもらうことになると思うから、先に彼の資料だけ渡しておくね」
そう言って渡された紙には、よく知っている名前と顔があった。
私は動揺していたが、なるべく平静を装った。
(大丈夫・・・きっと彼は気付かない・・・)
「そうなんですね、楽しみにしています」
そう言ってにっこりと営業用の笑顔をつくり、資料を受け取った。
(私は別人として生きている。大丈夫)
何度も何度も、自分に言い聞かせる。
‐神様、できれば時間を戻して欲しい
10年前の、あの日まで。