【立花薫】


「私のせいじゃない‼︎美咲が言うことをきかなかったからよ‼︎私は悪くない‼︎」


教室に入るなり、清水奈々が泣き喚いた。


ちょうど壁の手前は、私たちからは死角になっていて事の成り行きは分からない。


ただ、奈々と美咲がリードしていたにも関わらず、白組に追い抜かれたのは分かった。


「美咲がすぐ屈んでたら、負けてなかったわ‼︎」


あくまで罪を美咲に押し付けようという魂胆だ。


確かにそうなのだろう。どちらかが下になるかで揉めたのは、容易に想像がつく。


決して美咲が折れなかったのも。


それなら__と私は思う。


奈々の言うことは、そっくりそのまま自分にも跳ね返ってくるのではないか?


奈々がすぐ屈んでいたら?それに、どうして相手チームの久米茜は、壁を乗り越えることができた?それは、奈々が踏み台にされたからではないか?


「なんとか言いなさいよ‼︎私の言う通りだから何も言い返せないんでしょ!」


息を吹き返した奈々の目には、もう涙はない。


それをただ黙って聞いている、樋口美咲。


我がクラスのお姫様はしかし、とても美しいフォームをしていた。


私を含め、誰もが目を疑った。


美咲が、とんでもなく足が速かったからだ。