あの日、正義のお姉さんに対する思いを聞き、家族に対する思いやりと、彼の弱さを見た気がした。

ーー心が動いた。


意識しはじめていた気持ちを悟らざるを得なかった。



彼に対する想いに名前をつけるとしたら
"はつ恋"。



甘酸っぱい?
ううん、今はただ罪悪感と、苦しみでいっぱいだ。


嘘をついて正義に近付いた私を、
彼は許しはしないだろう。


「どうして?」

「どうしてって?」

「なんであいつ?」

「分かってる。正義は真凛の好きな人だってこと」

「そうじゃない」


土曜日、近所のカフェに裕貴を呼び出した。
真凛は私の呼び掛けには少しも答えてくれず、もやもやした気持ちを吐き出したかった。

塾もある裕貴には申し訳ないが、話を聞いてもらうことにしたのだ。

トートバッグに入った何冊もの参考書に、頭が痛くなる。
早く切り上げないと。


「なんで、真凛も志真も、鈴木正義がいいの」

「気付いた時にはもう…」

裕貴は深い溜息をついた。


「それで彼に身代わりだってことを打ち明けるつもり?」

「それは絶対にない!」

しー、と裕貴が口元に手を当てる。
突然の大声に、静かなクラッシックが流れている店内の視線が私に集まる。


「…もしかしたら真凛は正義のことが好きかもしれないから。だから言わない」


先に正義を好きになった真凛を裏切るようなことはしたくない。

それに、もしも。
私が真凛でないと知って、正義が態度を変えたら…彼に冷たくされたら、私は、きっとーー深い闇に落ちるだろう。