妹の代わりに登校することになった際、化粧に興味のなかった私は急いでメイクの勉強をした。

妹の部屋から雑誌を借りたが、様々な手法を凝らして可愛くなろうとする女の子たちのキラキラ具合が眩しかった。

必要最低限のアイテムを買い、毎日軽いメイクをして、髪の毛を整える。

黒髪ロングというセットの手間がかかない髪型を長年愛用してきたのだが、真凛は茶髪に毛先カールという時間のかかる髪型だ。

前髪も目にかからない程度に切り揃えていたが、横流しに変えた。前髪だけでも随分と印象が変わるものだ。


ネイルなんてものもしてみる。
真凛はサロンで手入れしていたようだが、億劫な私は自己流で好きなパステルカラーを塗って終わりにしていた。

女子って大変なんだ。
今まで手を抜きしていた分、実感しました。



「今日もメイクばっちりだね」


「おかげで5時起きだから。眠い」


欠伸をしながら、玄関で待つ裕貴に駆け寄る。

昔から綺麗好きな彼は寝癖ひとつなく、制服を着て凛と立っている。姿勢が良く、賢そうなオーラを放つ。

まぁ実際、頭は良いんだけど。


「おはよ」


「おはよう。昨日は大丈夫だった?」


「あ、うん。ごめんね」


例え裕貴であっても
あの、ファミレスでの一件を話すつもりはなかった。

正義の言葉は、私だけに向けられたものだから。
いいよね。



「来週、母さんの誕生日なんだ。プレゼント選び手伝ってくれない?」

「もちろん。今日?」

「今日の放課後は生徒会の集まりがあるんだ」

「待ってよっか?」

「いいの?」

「了解」

「こんな時にごめんね」

「こっちも気分転換になるから。むしろ、ありがとう」


顔を見合わせ、微笑み合う穏やかな時間。

村山真凛として振る舞う時間が多い学校生活で、唯一、私を志真として扱ってくれる大切な存在。

このかけがえのない朝の時間が、好きだ。