「付いてこないで」

「いいだろ」


私立桜塚高校。
名門と名高く、それなりに倍率も高い。

今日は入学試験日で、いつもは部活動で賑やう校庭は静かだ。


彼女が試験を受けるらしく、応援に駆けつけた晴人の後を付けてきた。

「紹介して」

「春から桜塚に入学するから、その時ね」

「はいはい」

なんの迷いもなく彼女が合格すると決めつけているが、そういうところがカッコイイのだ。

一度だけ写真で見た彼女も美人だったな。




「正義、」

「ん?」

俺の名前は鈴木正義(すずき まさよし)。



女友達は多いが、彼女はいない。

知り合いは多いが、親友はひとりだけ。

唯一の親友が幸せそうなので、何も言うことはない。


「ありがと」

「あ?」

「待ち時間、一緒に潰してくれて」

「いいから、早く行けよ」



晴人の背中を叩く。
試験開始直後から2人でずっと校庭にいた。

晴人がどんな思いでわざわざ学校で待機していたのかは聞いてないが、より彼女の近くで応援したかったのだろう。


「正義も一緒に帰る?」


「入学式の時でいーよ」


時計は試験終了の時間を指していた。


「また明日」

「おう」


タイミングよく彼女から電話が入ったようで、彼女を出迎えるため校舎に入って行く晴人を見送る。


去っていく親友の後ろ姿を見ながら、転がっているサッカーボールをひとり、蹴る。


多くの仲間に囲まれている自覚はあるが、ひとりの時間も好きだ。