お洒落をした裕貴のお母さんは私たちを嬉しそうに招き入れてくれた。

「友人が来てるというから、誰かと思ったよ」

私たちを部屋に招き入れた裕貴は真っ白なワイシャツを着て、清々しい笑顔を見せた。


「裕貴、話があるの」

黒を基調とした整理整頓された部屋。
無駄のない裕貴の部屋にちょこんと置かれた、可愛らしいぬいぐるみ。
3人で水族館に行った時にお揃いで買ったイルカのぬいぐるみ。
あの頃に戻りたい。


「…用件は想像がつくよ」


裕貴は私を見て、疲れたように笑った。

私と晴人さんは出されたクッションの上に座り、正義はベッドに腰掛けた。


「それなら話は早いです。真凛を解放して貰えませんか」

晴人さんは頭を下げる。

「…ここでいくら話しても、君たちが望む返事を出すことはできない」

「どうして?」

すぐに感情的になる私は余程のことがない限り、口を挟まないと晴人さんと約束している。
裕貴の気にさわるような失言をしてしまえば、話し合いどころではなくなってしまう。

「僕は何よりも、どんなものよりも、真凛を手に入れたいから」

裕貴の真剣な表情からひしひしと伝わってくる。
真凛への執着心。

世界一欲しいものが、真凛で。
けれど裕貴の願いは一方通行で。

裕貴と直接話して、分かった。

ああ、きっと。誰も悪くない。

みんなが自分の欲しいものに手を伸ばした結果、歯車が狂い始めたのだ。