「殿下、お逃げください! あなただけが——王位を継げるのです!」

 目の前で、自分をかばってくれた騎士が倒れる。ルディガーは周囲を見回した。マクシムの軍が、これほど強力だとは想定外だった。

 ルディガー自身、あちこち傷を負っている。

 自分の主を殺し、王となったマクシムが国境を侵犯してきたのは、一週間ほど前のことだった。最初に撃って出たのは兄。それから父と共にルディガーも出たが、もう戦線を維持するのは無理だろう。

 どうやら、ここまでのようだ。

 また一人、ルディガーをかばって倒れる。自分がこれ以上ここにいても無駄に犠牲を増やすだけだと判断した。

「無理はするな! 降伏しろ——マクシムも、おとなしくしていれば殺すことはないだろう」

 マクシムの噂は聞いているが、彼の機嫌をそこねなければ、当面は命を長らえるはずだ。

「どうか——ご無事で! 殿下!」

 声をかけてくれた騎士の方には見向きもせず、ルディガーは戦場を去る。目の前に現れる兵士を切りつけ、倒し——いったい何人を手にかけたのか、覚えていない。

 あちこち歩き回り、気が付いた時には、高い山に登っていた。このまま、身をひそめて、まだ生き残っている家臣達と合流する。それがルディガーの考えていた計画であったが——。

 脱出の最中、持っていたはずの食料も失ってしまい、傷の手当ても、布を巻き付けただけだった。