誰も参ることのない、目印すらない墓の上を風が通り過ぎていく。落ちていた葉が、風にのってくるりと舞うのを、ディアヌは窓から見ていた。

 城の敷地の端を選んだとはいえ、父と異父兄の墓は、ディアヌの部屋からよく見える位置だ。

 いたたまれない気持ちを押し殺すように、窓に背を向けた。あの場所を選んだのは、自分自身だというのに。

 ひょっとしたら、部屋を移ったのは失敗だったかもしれない。形だけとはいえ、今は王妃だ。

 けれど、形だけ、建前上だけとはいえ、自分が『王妃』という立場にあるというのを認めたくはなかった。

「ディアヌ様、ヒューゲル侯爵がお見えなのですが」

 取り次ぎに来たジゼルの言葉に、眉間に皺が寄る。ヒューゲル侯爵が、ディアヌに会いに来る理由なんて思い当たらなかった。

「お通しして」

 どうも彼は苦手だ。

 南の城壁を守っていた彼が、さっさと手を引いたから、ルディガーはこの城をたやすく制圧できたと聞いた。それならば、もっと早いうちに彼に申し出ればよかったのに。

「お待たせしました。私に、何か——?」

 こちらを見る侯爵の目には、得体のしれない表情が浮かんでいた。彼の目に、ぞくりとしたのを隠すように、薄く笑みを浮かべてみせる。

「元王太子ジュールの盗伐を命じられました」

「そう……ですか」

 ある意味、侯爵にジュールを盗伐する役を負わせるとは、なかなかな皮肉かもしれない。