玄関の戸を開けると普段とは違う匂いがした。

ツンと、鼻を刺激する香り、私はこの攻撃的な香りの正体を知っている。


ラベンダー、花言葉は確か「期待」「沈黙」だった気がする。
ラベンダーの香りは好き嫌いが分かれやすく、私はどちらかと言うと嫌いな方。

昔、友達に貰った『ラベンダーの香りで男をイチコロ♡』という香水を使って自分で自分をイチコロ、良くない意味で。


そんな嫌な思い出の集合体であるラベンダーの香りが漂っている。
耐えられない、非常に。


早く抜け出そうと思い、玄関の鍵を閉めるとお隣の部屋に洗濯物が干してあるのが目に入った。

ようやく嫌な思い出の集合体の出処を突き止めたけれど、私はお隣の家に洗濯物が干されてあることが不思議だった。

「誰も住んでないはずじゃなかったっけ…。」

そういえば最近、引越し業者の大きな車が邪魔で自転車に乗れなかった。そんな思い出がある。


引っ越してきたらしい、挨拶すらしていないので全く気づかなかった。

私は嫌な思い出の集合体をまとわりつけた洗濯物を横目に自転車で優雅な登校をしようとしたら、ガチャとお隣の家の扉が開いた。

「あ、お隣の人ですか。
すみません、挨拶出来なくて、忙しかったもので。」
私を見つけるなり、大人っぽい話し方のお隣さん。

「いえ、おはようございます、あの、お隣さんの年齢は…?」
私は単純にこの近くの私立高校の制服をきたお隣さんの大人な雰囲気が気になった。

「え?あ、16です。それと俺は相田です。」
名前よりも先に年齢を聞くという突然の奇行にも大人な対応、そしてサラッと名前も教えてくれる。

しかし、私がそれより気になったのは彼が16歳だと言う事。
背も、声も、話し方も年長者の雰囲気がムンムンとするお隣さんは私より年下だったらしい。

「私は吉野です、宜しくね。
いつから引っ越して来たの?この辺は慣れました?」

「四日前です、一応前々からこの辺りに住んでいたので慣れてます。」
あまり私のことを知ろうとしない。
それとも私から話した方が良いのだろうか。
突然馴れ馴れしく話を進めることに苛立って無いだろうか。
前々から住んでたって何処だろう、なんで引っ越してきたんだろう。
家族構成は?たった16年で何があれば大人のような雰囲気を出せるんだろう?

これからこの相田と名乗ってくれた聞きたい事がたっぷりなお隣さんをラベンダーさんと密かに呼ぶことにした。