「お嬢さんをください」

「娘はやらん」


そんなドラマみたいなことが目の前で繰り広げられている。






なんて、わけはなく、


「そうですか、堂地さんも大変ですね~」


いやいやいや。主任じゃなくて、大変なのは私ですっ


お母さんにそう言われてるのは、キリッとパリッとしてメガネまでかけた主任こと堂地純哉(ドウチジュンヤ)さん。

三ヶ月前までは同じ会社の上司と部下という関係だった私たち。

まぁ色々あって恋人同士になったわけなんだけど。(詳しくは『彼と恋のレベル上げ』を参照)

四月から社内の異動で東京に行ってしまった主任と付き合い始めたもののいきなりの遠距離恋愛。

週末に私が東京へ行ったり主任が来たりするのを心配するといけないからっていう理由でうちの両親に挨拶をしたいといって今日は二人で実家に来ている。


「いえ。」

「桃華ちゃんたら、お料理も全く出来ないし……」

「お母さんっ」


そんなことっ、今言わなくてもいいでしょう?

私だって、こっそりお料理の練習だってしてるんだからっ…今はまだ内緒だけど


「あら~。だって25にもなって何にも出来ない娘をもらってくれるなんて奇特な方がいらっしゃるなんてねぇ、お父さん?」


もらってくれる?
いや、今日はお付き合いしてますっていうご挨拶だったはず。


「もらってくれるなんて話、堂地君はしてないと思うけどな」


そうよ、お父さんっ。
そんなに控えめな感じじゃなくてもっとちゃんと言って。


「あら。あらあら、そうだったかしら?」

「いえ、もちろん先の事も考えていますが。まだ本人の承諾を得ていませんので」


そう言ってちらっと私のほうを見る主任。

承諾も何も、そんな話聞いてませんけど?


「まぁ、そうなの?桃華ちゃん」


いや、だから。何、言って……?


「あ、えと、え?」

「モモ、落ち着いて?」


優しく主任にそう言われて、急に落ち着きを取り戻した私。

でもね、落ち着いたところでそんな話しほんとに聞いてませんからっ


「きょ、今日はご挨拶だけって主任言ったじゃないですかっ」

「そう、だったかな?」


なんですか、その営業スマイルは!

しかも、その眼鏡の奥の瞳は笑ってませんからっ