気付けば朝。
最近朝が来るのが早い気がする。
体が重い。もう一度寝ようかな。
そんなことをかんがえながら、僕はまた布団に潜り込んだ。


「みーみー」

子猫の鳴き声が聞こえた。
あ、お腹すいたんだな。
その声に誘われ、僕は布団から出た。



「えっと、哺乳瓶...確か昨日買ったはず、。」


「あ、あったあった、」

ていうかミルク作るなんて初めて。
なんか緊張する。




「お、よし、できた」

子猫の口元の近くに持っていくと、小さな体で必死にミルクを飲もうとしている。
そんな姿を見ていると、心が和む。


“「ミルクを飲ませたあとは背中を優しく叩いて上げてくださいね!!」”


ペットショップの中で彼女とした会話を思い出しながら、彼女に言われた通りにすると、

「けぷ」

小さなげっぷが聞こえた。

はこの中のクッションの上に戻すと、
子猫はまたスヤスヤ眠り始めた。

携帯の日付を見て、溜息が出た。

あ、やばい今日はバイト入れてるんだった。
ミルクをあげる間隔は大体3時間。
今日は、絶対帰れなかった。

バイト先と、相談してみるしかないな…でも、だいぶ前からシフト入れてるし。

今日だけは、他のことで頭を紛らわすために深夜までバイトを入れている。
引越しをしてから、バイト変わってほしいと頼める友人もいなければ、子猫を見てほしいと頼める知人もいない。
そうは言っても、ほっとくわけにはいかないため、バイト先にダメもとでお願いしてみる事にした。

僕は身支度を終え、バイト先に向う。



嘘だろ…工事中とか。タイミングの悪さ。

いつもは通れる道が、今日は、工事中と書かれた看板で塞がれている。
バイト先へ向かえる道は、あともう一つあったが、どうしてもその道だけは通りたくない。
けど通るしかないのは分かっていた。

イヤホンを最大まであげて、下を向く。
夕陽ケ丘橋の上を歩く。

そして手動のドアを開けた。

「いらっしゃいま…っ
あらぁ!!幸生くん!!!
やっと来たのね!ありがとう!
今日深夜まで入ってくれるそうじゃない!!助かるわ〜」

自分が帰れると喜んでいることは
伝えてこなくても伝わる。

「その事なんですけど、すいません。急用で入れなくなりました。今日、18時には帰らせていただきたいんです。」
「え、なんの用事?もっと早く行ってくれないと困るわ。それにだいぶ前からシフトいれてくれたじゃない、ダメよ。今日他入ってくれる人居ないんだもの。そんなに大事な用事なら代わりの人、連れてきて」

顔色を変え冷たく追い払ったおばさんは、無愛想に裏へ戻ってしまった。

まあ、だろうな。
想定内だ。でも、想定内でも、どうしよう。

宛もなく僕は、とりあえず店を出た
その直後、

「あ!!!幸生さん!!!」

手を振られて、僕が頭をぺこっと下げると、
なにやら大きい袋を二つ持って、こちらへ駆け寄ってきた。

「すごい大荷物ですね。」
「そうなんです、今日父が久しぶりにお友達と飲みに行くらしくて、自炊しようと思って!!!」
「え、けど…」

明らかに一人分ではないその量に、僕は思わず問いかけた。

「それ、一人分ですか??」
「…そうなんです、スーパーってダメですね、、どれも美味しそうでつい、色んなものを買ってしまって、きっと食べきれないです」
「大変ですね、」

バイトの代わりを探すことをすっかり忘れそうになっていると電話がなった。


((バイト先))

「もしもし?幸生くん?」
「はい」
「早く代わりの人を見つけてきてくれないと困るわ、」
「すいません、わかりました」

電話を切ると、横に居た彼女は僕の顔を見ていた。

「どうされたんですか?なにかお困りな事でも…?」
「いえ、なんでも」
「そうですか、私でよければ、代わりにバイトでましょうか?」
「え、?」

彼女は意地悪そうに微笑んでから
「すいません、電話の内容、聞こえてしまって」という。

「でも、それ。ご飯、作らないとですし、大丈夫です、ミルクは、僕がバイト先に頼んで、少し席開けさせてもらいますから」

僕は彼女が持っている袋を見た。

「え、あ…子猫ちゃんのご用事ですか!?
なら私がしますよ!あ、、でも知り合って間もない私がお家上がるとか嫌ですよね、、」

一人で、あたふたしている彼女を見て思わず口元が緩んだ。

「特に気にしないですし、大丈夫なら、お願いしても良いですか?」
「もちろん!!!」
「じゃあ、家まで、一緒に行きましょうか。」


____数分後の事だった。