ケータイ小説 野いちご

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泡沫

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「650円のお買い上げになります。650円丁度頂戴致します。ありがとうございました。」

♪ティロリロリン

店の自動ドアが開き、聞き飽きた音が聞こえると共に客が一人店を出る。

そしてまたすぐ、新しい客が入ってくる。

「お弁当は温めましょうか。…かしこまりました。1100円のお買い上げになります。」

同じような言葉の繰り返し。

このコンビニで働き出してからもう2年程経っただろうか。

週5、多い時で週7も連勤していると、そろそろお馴染みの台詞を間違うこともなくなってきた。

「皐月ちゃん、上がっていいよ」

「あ、じゃあ…お疲れ様でした」

「お疲れー」

ロッカールームで制服から着替える。

油が飛び散った跡が付き、少しシワの目立つ制服。

最初の頃は少し汚れたらクリーニングに出していたけど、今はそれももう面倒くさくなってしまった。

着替え終わって外に出ると、少し肌寒く感じるようになってきた風が皐月の頬を撫でた。

何だか冬の香りがする。

バイト先のコンビニから徒歩5分、築30年程の木造アパートの我が家。

住み始めてからもうすぐ一年になり、家賃は43000円。

そんな我が家の目の前にあるスーパーに立ち寄り、本日の夕食を調達する。

様々な商品が並ぶのには目もくれず、真っ直ぐに弁当売り場に足を進め、値引きシールが付けられた小さめの弁当とペットボトルの緑茶を手にする。

一秒でも早く帰宅したいと急ぎ足にレジへと向かったが、日暮れ時の値引きラッシュに夕飯に悩んだ主婦や会社帰りのサラリーマンも多い。

なかなかの込み具合だ。

大人しく並び、ようやく会計へと進む。

「300円のお買い上げになります」

「お願いします」

「300円丁度頂戴致します。…バイト終わりですか」

「…?そうですけど…」

「お疲れ様です」

「ありがとうございます…?」

突然顔見知りかのように話しかけてきた店員。

爽やかで大人しそうな青年で、年齢は皐月と同じ二十歳と言ったところであろうか。

何度頭をフル回転させて記憶の片隅まで彼の存在を探しても見当たらない。

「あの、お知り合いでしたっけ?」

「いいえ、初めましてです、こんばんは」

「あ、やっぱりそうですよね、はは」

疑問をぶつけ、自分の記憶に間違いがなかったのを確認したのはいいものの、ここからどう話を繋げていいか分からない。

悩んでいると、ずらりと並んだレジの列を確認した彼から別れを切り出された。

「ありがとうございました。またお待ちしております」

「あっ、どうも」

何事もなく通常通り接客を始める彼を横目に、買った弁当とお茶を鞄に詰め込む。

もしかしたら、皐月の考えすぎかもしれない。

いつもバイト終わりには必ずこの店に寄るし、そうでない時も度々訪れる常連なわけだから、顔を覚えられても不思議ではない。

そんな常連客へ、あの程度の挨拶を交わすくらい大した問題ではないはずだ。

ただ、異性への免疫がほとんどない皐月には衝撃が大きかっただけのことであろう。

そう思うとそれほど気にならなくなった皐月は、スーパーを後にし家路へと急いだ。

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