男が彼女の細い腕を掴んだ、その瞬間。

頭が沸騰しそうなほど血が上った。

必死で抵抗する彼女が、ぼろぼろと大きな瞳に涙を溢れさせて俺に助けを求めてくれた時は、全身が歓喜に震えた。

そして、周りの音が聞こえなくなるくらいの激情に身を任せ、男の頬を捉えた。

直撃した感触で、はっと現実に引き戻される。

ーー地面に吸い込まれるように、倒れていく男。強く殴り過ぎたのか、男は小さく唸ったまま起き上がろうとはしなかった。

いや、出来ないのか。どちらにせよ、賢明な判断だ。

だってまだ、殴り足りないと思ってる自分がいる。

「相良、君……」

彼女の透き通るような声がして、慌てて彼女に振り向いた。

彼女は一目散に駆け出して、俺の胸に飛び込んでくる。

「相良君……相良君っ!」

抱き締めた身体は細く小さく、かたかたと震えていた。

男達に囲まれて、裏庭に引き摺り込まれて、どんなに恐ろしかっただろう。

「遅くなってごめん」

悔しい。

ーーもっと早く気付いていれば。

激しい後悔に、きつく手のひらを握り締める。今もまだ、微かに震える彼女が痛ましい。

どうしてこんなに怯えている子に、あんな真似が出来るのか。

「大丈夫。もう、大丈夫だからね」

そんな言葉をかけることしか出来ないのが、こんなにももどかしい。

暫くすると、彼女の震えが治まり始めた。

俺にしがみついていた彼女の手から、力が抜けていく。安心したのかと思ったけれど、どこか様子がおかしい。

「……由李ちゃん?」

彼女が、ぐったりと凭れ掛かる。呼び掛けても反応を示さない。

「由李ちゃん……由李ちゃん!」

彼女を抱き留めて、慌てて辺りを見回した。

いつの間にか、男達はぼろぼろの状態で、ここぞとばかりに逃げ出していた。

男を返り討ちにしている宮日を援護するように、渾身の一撃を食らわしていた美鈴達が、俺の声に反応して駆け寄ってきた。

相当な騒ぎになっていたのか、遠くから先生達が走ってくるのが横目に見えた。

「由李!どうしたの!?」

「分からない!急に、」

「ど、どうしよう、由李、由李がっ!」

「二人共落ち着け!要、とにかく保健室に連れて行くぞ!宮日は先生に説明を!早く!」